時計の世界に「海への賛歌」があるとすれば、パネライ ルミノール1950 PCYC 3デイズ クロノ フライバック アッチャイオ PAM00653は、その最も情熱的な表現の一つであろう。2017年に誕生したこの一本は、パネライが主催するクラシックヨットレース「パネライ・クラシック・ヨット・チャレンジ(PCYC)」へのオマージュとして生まれた。
ダイヤルの最大の特徴は、フランジにプリントされたノティカル・タキメーターだ。これは1海里を航行するのに要した時間から、ヨットの平均速度を即座に算出できる、まさに海のための機能である。ブラックの文字盤に配されたベージュの夜光アラビア数字は、ヴィンテージの風格を漂わせ、時計全体に落ち着いた品格を与えている。
心臓部には、自社製キャリバーP.9100が搭載されている。302個もの部品で構成されるこのムーブメントは、コラムホイールと垂直クラッチを備え、約72時間のロングパワーリザーブを誇る。最大の見どころは、10時位置のプッシュボタンを押すだけで、クロノグラフ針が瞬時にゼロへと「飛び」、そのまま再計測を始めるフライバック機構だ。連続する計測を必要とするヨットレースにおいて、この機能はまさに実用そのものである。
ケースバックには、帆船のエングレービングと「PANERAI CLASSIC YACHTS CHALLENGE」の文字が刻まれ、所有する者が腕を返すたびに、海への情熱を静かに思い起こさせる。
44mmのステンレススチール製ケースは、細腕にも自然に馴染む絶妙なバランスで、リューズプロテクターの存在感もシャツの袖口を邪魔することはない。2017年度の年間生産本数はわずか500本、日本への入荷はその約7%にあたる35本程度とされ、手に入れること自体が稀な体験となっている。PAM00653は、単なる時計ではない。それは、海と共に生きる情熱を、二つの「心臓」——クロノグラフとGMT——ではなく、クロノグラフと航海計器の魂で刻む、海の男のための一本なのである。 |