1976年、これまでにない時計がジュネーブで誕生した。その名は「ノーチラス」。ジュール・ヴェルヌのSF小説『海底二万里』に登場する潜水艦にちなんで名付けられたこの時計は、ジェラルド・ジェンタの筆によって生み出された。それは、高級時計の世界に「スポーツエレガンス」という新たなジャンルを切り開いた。中でもRef.5711は、2006年にノーチラス誕生30周年を記念して登場したモデルであり、以後コレクションの屋台骨として君臨し続けた。
この時計の第一印象を決定づけるのは、そのユニークなケースフォルムである。40mmのステンレススチールケースは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げの絶妙なコントラストによって、まるで宝飾品のような高級感を漂わせる。特徴的なオクトゴン(八角形)のベゼルは、ノーチラスのアイデンティティそのものだ。厚さわずか8.3mmという驚異的な薄さでありながら、120mの防水性能を実現している。
最大の魅力は、水平線上の波紋を思わせるエンボス加工が施されたブルーのダイアルである。光の加減で深海の青から夜空の藍へと表情を変えるこのダイアルは、見る者を飽きさせない奥行きのある美しさを湛えている。ホワイトゴールド製のアプライドインデックスと、夜光塗料を施した針が、視認性と気品を両立させている。3時位置には実用的な日付表示窓が控えめに設けられている。
心臓部に搭載されるのは、パテック・フィリップ自社製の自動巻きキャリバー26-330 S Cである。30石、28,800振動/時(4Hz)、最大45時間のパワーリザーブを誇り、シースルーバックからその精緻な動きを鑑賞することができる。21Kゴールドのローターには、カラトラバ十字が刻まれている。
ステンレススチール製のブレスレットは、ケース同様にサテン仕上げとポリッシュ仕上げを巧みに使い分け、フォールディングクラスプで確実に固定される。2021年に突然の生産終了が発表され、その価格は高騰した。ノーチラス5711は、単なる時計ではない。それは、時を超えるオクトゴンの美を体現する、伝説の系譜を継ぐ一本なのである。 |