時計芸術の頂点に立つヴァシュロン コンスタンタンが、現代の感性でクラシックを再解釈した「フィフティーシックス」コレクション。その中でも「トゥールビヨン 6000E/000R-B488」は、複雑機構の王様とも言えるトゥールビヨンを、比類のない洗練さでケースに収めた、まさに至高の一品である。
この時計の魅力は、その「控えめな気品」にある。1956年に誕生したオリジナルモデルを彷彿とさせる、しなやかでエレガントなケースデザイン。18ctピンクゴールドの温もりある輝きが、時計全体を穏やかながらも確かな存在感で包み込む。
しかし、この時計の真骨頂は、そのシンプルな佇まいの裏側にある。文字盤の6時位置に配されたトゥールビヨンは、ヴァシュロン コンスタンタンのマルタ十字をモチーフにした美しいケージで悠然と回転する。これは、時計技術の粋を集めた複雑機構が、決して誇示することなく、静かにその鼓動を刻んでいるのである。
文字盤は、清楚なバトンインダイヤルと、繊細なミニッツトラックが配置され、驚くほど読みやすい。トゥールビヨンという存在感のある機構でありながら、文字盤全体のバランスは乱されておらず、むしろその機能美が時計に深みとリズムを与えている。
内部には、ヴァシュロン コンスタンタンが誇る手巻き式トゥールビヨンムーブメントが搭載されている。その精巧な仕上げは、サファイアクリスタルバックから存分に鑑賞できる。
ヴァシュロン コンスタンタン フィフティーシックス トゥールビヨンは、複雑さを喧伝しない。それは、内に秘めたる技術の美しさを理解する者だけが手にできる、静かなる栄光なのである。 |